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卵巣がん治療の最前線

※本記事は、2015年4月号「がんサポート」に掲載されたものです。

難治性の再発・進行卵巣がんに 抗PD-1抗体薬を用いた新しい免疫療法

プラチナ製剤耐性の再発進行卵巣がんは、難治性で有効な治療選択肢も少ないため、早期の治療法開発が求められている。京都大学医学部附属病院産科婦人科では、「抗PD-1抗体薬」を用いた免疫療法の医師主導第Ⅱ相臨床試験(治験)を実施した。どのような治療法なのか、治験責任医師である濵西潤三さんに話を聞いた。

「抗PD-1抗体薬は、がん治療におけるブレイクスルーの1つとして、世界中で注目されています」と話す濵西潤三さん


早期開発が待たれる 再発進行卵巣がんの新しい治療法

卵巣がんの年間罹患者は約8,000人。子宮頸がん・子宮体がんと比べて数は少ないものの、半数以上がステージⅢ、Ⅳという進行した状態で発見されるという。卵巣がんは痛みや出血などの自覚症状がほとんどないためだ。

がんが腹腔内に広がっていたり、リンパ節に転移がみられるステージⅢ以降の治療は、手術と抗がん薬による化学療法の組み合わせが必須となる。そのときの第1選択薬はプラチナ製剤(カルボプラチンやシスプラチン等)とタキサン製剤(パクリタキセルやドセタキセル等)の併用だ。

この組み合わせで著効することも多いが、一方で、60%以上が再発するとも言われている。

「とくに半年以内に再発した”抗がん薬が効きにくいタイプ”の患者さんの場合、有効な治療選択肢が少ないのが現状です。有効性と安全性に優れた新しい治療法が求められているのです」と、京都大学大学院医学研究科婦人科学産科学助教の濵西潤三さんは新しい治療法の早期開発の重要性を強調する。

カルボプラチン=商品名パラプラチンなど シスプラチン=商品名ブリプラチン、ランダなど パクリタキセル=商品名タキソール ドセタキセル=商品名タキソテール

期待が高まる 抗PD-1抗体薬

その新しい治療法として注目されているのが、免疫チェックポイント阻害薬の1つである抗PD-1抗体(ニボルマブ)を用いた免疫療法だ。

ニボルマブは欧米を中心に臨床試験が進んでいたが、世界に先駆けて日本で2014年7月に、メラノーマ(悪性黒色腫:皮膚がんの一種)の治療薬として薬事承認された(商品名オプジーボ)。すでに肺がんや腎がんなどの領域でも、この薬を使った臨床試験が進められている。

では、そもそも”免疫チェックポイント阻害薬””抗PD-1抗体”とはどのようなものなのか。

「私たちの体にはT細胞という免疫細胞が、新たに発生したがん細胞を異物として攻撃していると言われている。

活性化したT細胞には、活性し過ぎないようブレーキをかける働きを持つ抑制性副シグナル(免疫チェックポイント)が数種類発現します。その1つがPD-1です。またがん細胞は、PD-1と結合するPD-L1(PD-1リガンド)という免疫抑制分子を発現させてPD-1と結合し、T細胞の働きを抑えてしまうのです」。

図1 がん免疫逃避機構のメカニズム


このがん細胞が宿主の免疫攻撃から逃れる仕組みを「がん免疫逃避機構」(図1)という。現在、これを標的とする新しい免疫治療が免疫チェックポイント阻害薬として国内外で注目されている。その代表的なものが抗PD-1抗体なのだ。

「ニボルマブがPD-1と結合し、がん細胞の免疫抑制作用をブロックすることで、T細胞の再活性化が期待されます。進行・再発卵巣がんではPD-L1が高頻度に発現しているため、ニボルマブが有効なのではないかと考えられています(図2、図3)。

図2 卵巣がんとPD-1リガンド(PD-L1、PD-L2)発現と予後の相関

卵巣がんにおけるPD-L1の高発現は、PD-L2(PD-1リガンド2)高発現よりも患者の予後不良に関わる重要な因子である
図3 免疫チェックポイント阻害薬ががんに作用する仕組み


免疫チェックポイント阻害薬は従来の抗がん薬と違い、がん細胞を直接攻撃する薬ではありません。
しかし、ニボルマブはメラノーマに対して従来の化学療法よりも高い奏効率と、治療効果の持続を示しています。数年内には、卵巣がんをはじめ複数のがんに対する抗がん薬として承認されるのではと期待しています」

ニボルマブ=商品名オプジーボ

有効性を医師治験で確認

京都大学医学部附属病院産科婦人科では、2011年9月から、プラチナ製剤に耐性を持つ難治性の再発・進行卵巣がん患者に対して、抗PD-1抗体ニボルマブを用いた免疫療法の医師主導第Ⅱ相治験を開始した。

対象は、卵巣がんに最も効果があるとされるプラチナ製剤に耐性があり、タキサン製剤を含む2種類以上の治療を受けたことのある、6カ月未満で再発した上皮性卵巣がん(卵管がん、腹膜がん含む)の患者さん20人(表4)。自己免疫疾患を持つ患者さんは除外した。

方法は、ヒト型に組み換えた抗PD-1抗体ニボルマブを、8週間1コースとして点滴投与(2週間毎に計4回)。先行している他がん種の臨床試験で、安全性・有効性に対する用量依存が見られなかったため、低用量群(体重1㎏あたり1㎎)と高用量群(同3㎎)に10人ずつ割り付けて投与した。8週間毎に画像評価を行い、病勢安定(SD)以上であれば最大6コース(1年間)投与した後、追跡・解析した。

主要評価項目は奏効率(RR:がんが縮小したり消滅したりする割合)。そのほか安全性、無増悪生存期間(PFS:がんが進行しない期間)、全生存期間(OS)、病勢コントロール率(DCR:がんが縮小または変わらない割合)も評価項目とした(2014年米国臨床腫瘍学会 [ASCO2014] 発表に基づく)。

解析対象となったのは18例(中間カットオフ値)で、年齢中央値は62歳。病期はステージⅠが2例、ステージⅢが13例、ステージⅣが3例。がんタイプは漿液性腺がん14例、類内膜腺がん2例、明細胞腺がん2例という内訳で、4種類以上の治療を受けている人が11例だった(表5)。

表4 医師主導第Ⅱ相治験の対象
(すべての条件に当てはまる患者さん)

表5 医師主導第Ⅱ相治験での解析対象と
なった患者さん(18例)の背景


腫瘍が完全消失した事例も

解析結果は、1㎎/㎏群10例において部分奏効(PR)1例、病勢安定2例。奏効率は10%、病勢コントロール率は30% だった。3㎎/㎏群8例では、完全奏効(CR)2例、病勢安定1例。奏効率は25%、病勢コントロール率は63%であった。全体(18例)では奏効率17%、病勢コントロール率44%となった。

安全性に関しては、因果関係が否定できない重篤な副作用を2例認めたが、いずれも改善している。従来の抗がん薬のような嘔気、嘔吐のようなQOL(生活の質)を低下させるような副作用は比較的少ない印象のようだ。

これらの結果から、濵西さんは「ニボルマブはプラチナ耐性の再発・進行卵巣がんに対して忍容性があると考えられ、新たな治療選択肢の1つとして期待できる」という。

企業提携を含めた研究開発も加速 今後の治療戦略が期待される

表6 PD-1(PD-L1)阻害薬の開発競争
分類 化合物名 対象がん種 会社 Phase
抗PD-1抗体 Nivolumab
BMS-936558
(Nivolumab)
固形腫瘍 BMS/ONO
(USA・EUR/JPN)
1-4
Pidilizumab
CT-011
急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、固形腫瘍 CureTech
(Israel/USA)
1-2
Pembrolizumab
MK-3475
(KEYTRUDA)
がん Merck
(USA)
1-4
AUNP-12
(peptide)
がん Aurigene(India) 1
AMP-514 がん Medimmune/AZ 1
抗PD-1抗体 BMS-
936558
ホジキンリンパ腫、
多発性骨髄腫、固形腫瘍
BMS 1
MPDL3280A 白血病 Genentech 3
MEDI4736 白血病 Medimmune/AZ 1
MSB0010718C がん EMD Serono 1
Fc-融合タンパク
PD-1標的
AMP-224 がん
HIV
GSK
(USA)
1
(JNCI.2011)(Chin J Can 2014)

京都大学での第Ⅱ相医師治験の新規登録は2014年3月に終了している。現在はニボルマブの効果予測や有効性・副作用のバイオマーカー探索も行われているという。

「今年は、メラノーマに対するニボルマブの販売開始から1年間の全例調査によって、多様な背景を持つ患者さんに対する治療効果と安全性が確認される予定です。その結果を受けて、さらに新しい治療標的となるがん種の探索や、併用療法を含めた新しい治療効果の増強を模索することが可能となります。

また新しい免疫チェックポイント阻害薬の開発などが進むと考えられ、それらの成果が順次報告され始めるのではないかと期待しています(表6、表7)。

私たちも卵巣がんへの適応拡大に向けた次の試験の準備に尽力していきます」と濵西さんは今後の展開について述べている。

表7 PD-1/PD-1リガンド(PD-L1、PD-L2)経路阻害薬の開発状況
化合物 会社 化合物種 標的 対象がん種 Phase
BMS-936558/ONO-
4538(Nivolumab)
(OPDIVO®)
BMS/ONO 完全ヒト化抗体
lgG4
PD-1 メラノーマ、腎がん、非小細胞肺がん、ほか固形腫瘍、リンパ腫 1-4
CT-011
(Pidilizumab)
Teva/
CureTech
ヒト化抗体
lgG1
PD-1 急性骨髄性白血病、肝がん、すい臓がん、大腸がん、前立腺がん、B細胞リンパ種、多発性骨髄腫 1-2
MK-3475
(Lambrolizumab)
(KEYTRUDA®)
Merck ヒト化抗体
lgG1
PD-1 メラノーマ、非小細胞肺がん、大腸がんほか固形腫瘍 1-4
AMP-224 GSK PD-L2-Fc
融合タンパク
PD-1 悪性腫瘍 1
RG-7446/
MPDL3280A
Genentech/
Roche
ヒト化抗体
lgG1
PD-L1 メラノーマ、腎がん、非小細胞肺がん、ほか固形腫瘍 1-2
BMS-936559 BMS 完全ヒト化抗体
lgG4
PD-L1 メラノーマ、腎がん、非小細胞肺がん、乳がん、すい臓がん、リンパ腫 1
MEDI-4736 AstraZeneca 抗体 PD-L1 固形腫瘍 1
rHlgM12B7 Mayo Fund. 抗体 PD-L2 メラノーマ 1
BMS:Bristol-Myers Squibb GSK:GlaxoSmithKline

がんサポート(2015年4月号)より

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