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肺がんの新規免疫療法

※本記事は、2015年2月号「がんサポート」に掲載されたものです。

分子標的薬との併用で効果を高める可能性も

免疫チェックポイント阻害薬で 肺がん治療はさらなる進歩へ

手術、抗がん薬治療、放射線療法に並び、第4の治療法として今、俄然注目を浴びているのが免疫療法だ。中でも「免疫チェックポイント阻害薬」は、肺がん領域でも、期待の持てる治療成績をあげている。

「免疫チェックポイント阻害薬の登場で、肺がん治療はさらに進歩すると考えられます」と話す慶応義塾大学医学部の副島研造さん


新しい免疫療法の臨床試験が進んでいる

現在、肺がんの治療薬の開発で、最も加熱しているのが新しい免疫療法薬の開発である。新しい免疫療法で使われる薬剤は、「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれている。どのような薬なのだろうか。慶応義塾大学医学部呼吸器内科准教授の副島研造さんは、次のように説明してくれた。

「がん細胞を攻撃する細胞傷害性T細胞(CTL:以下、T細胞と記載)には、活性化しすぎて暴走するのを防ぐために、ブレーキ役として働くいくつかの分子が備わっています。これが免疫チェックポイントと呼ばれるもので、がん細胞はこれをうまく利用して、免疫からの攻撃を逃れています。そこで、免疫チェックポイントの働きを阻害する薬の開発が進められてきました。T細胞が本来の力を発揮し、がん細胞を攻撃できるようにする治療法です」

現在、このタイプの免疫療法薬の開発が、急ピッチで進められている。「肺がん領域では、オプジーボ、pembrolizumab(ペンブロリズマブ:一般名)、ヤーボイといった薬が、標準治療と比較する第Ⅲ相の臨床試験に入っています。第Ⅰ相、第Ⅱ相試験となると、把握しきれない数の臨床試験が世界中で進行しています」

肺がんの治療は、分子標的薬が次々と開発されることで大きな進歩を遂げたが、分子標的薬進歩は限界に達しつつある。今後、開発の中心となっていくのは、免疫チェックポイント阻害薬と言えそうだ。

「ここ10年、分子標的薬によって、肺がんの治療は大きく変化しました。これからは、免疫チェックポイント阻害薬が登場してくることで、肺がんの治療はさらに大きく進歩すると考えられています」

オプジーボ=一般名ニボルマブ(※日本で開発された世界初の抗PD-1抗体薬。2014年7月悪性黒色腫に対して承認)
pembrolizumab(ペンブロリズマブ:一般名)国内未承認 ヤーボイ=一般名イピリムマブ(※抗CTLA-4抗体薬。2015年7月悪性黒色腫に対して承認)

免疫の働きにブレーキがかかるのを阻害する薬

抗CTLA-4抗体は、主にリンパ節の中で働く薬である。がん細胞を食べた樹状細胞は、その目印である抗原を細胞表面に提示する。攻撃役の細胞であるT細胞は、抗原を認識し、さらに樹状細胞のB7という分子と、T細胞のCD28という分子が結合すると、T細胞は活性化してがん細胞への攻撃態勢を整えた状態になる。

ところが、T細胞が活性化すると、表面にCTLA-4という分子が発現する。これが樹状細胞のB7と結合すると、T細胞の働きが抑制され、がんを攻撃しなくなるのだ。抗CTLA-4抗体は、CTLA-4と結合することで、T細胞の働きが抑えられるのを防ぐ。こうして、がん細胞への攻撃態勢を整えたT細胞が、がんのあるそれぞれの部位に移動して、がん細胞への攻撃が始まるのだ。

T細胞はがん抗原を認識して、がん細胞を攻撃することで、小さいがんは死滅させることができる。しかしがんが増殖してくると、攻撃が防御されてしまう。活性化したT細胞の表面にはPD-1という分子が発現し、増殖した腫瘍のがん細胞にはPD-L1が発現していて、PD-1とPD-L1が結合すると、T細胞の働きが抑えられてしまうのである。

この現象を防ぐのが、抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体である。抗PD-1抗体はPD-1と結合することで、抗PD-L1抗体はPD-L1と結合することで、PD-1とPD-L1が結合するのを妨げ、T細胞の働きが抑えられないようにする。

図1 免疫チェックポイント阻害薬ががんに作用する仕組み


つまり、免疫チェックポイント阻害薬はがんを攻撃する薬ではなく、免疫の働きにブレーキがかかるのを阻害する薬なのである。

第Ⅱ相臨床試験で有効性が確認されている

数々の臨床試験が行われているが、とくに進んでいるのが、抗CTLA-4抗体薬のipilimumabと、抗PD-1抗体薬のオプジーボの臨床試験である。第Ⅱ相試験の結果が出て、現在は第Ⅲ相試験が進行中。ここでは第Ⅱ相試験のデータを紹介しよう。

ipilimumabに関しては、標準治療のパラプラチン+タキソール併用の化学療法群と、これにipilimumabを加えた併用群の比較が行われており、その結果、ipilimumab併用群のほうが、無増悪生存期間(PFS:がんが増悪するまでの期間)が延長していることがわかっている(図2)。

「ipilimumabを抗がん薬と同時投与すると有意差は出なかったのですが、先に抗がん薬治療を行い、がんを壊しておいてからipilimumabを使う連続投与の場合には、無増悪生存期間が有意に延長することが明らかになっています。がんが壊れると、色々な抗原が出てくるので、それを樹状細胞が認識して、T細胞が攻撃しやすくなるのだと考えられています。ipilimumabは単剤での効果は認められていません。併用で、それも連続投与することで効果を発揮することが、第Ⅱ相試験でわかってきました」

オプジーボについては、単剤での治療成績が報告されている(図3)。

「対象となったのは、既に薬物治療を受けてそれが効かなくなった非小細胞肺がんの患者さん129人です。オプジーボ単剤の治療を受けたところ、1年生存率が42%、2年生存率が24%でした。そして、薬を止めた後も、長期にわたってその効果が持続している人がいたことがわかっています」

パラプラチン=一般名カルボプラチン タキソール=一般名パクリタキセル

図2 非小細胞肺がんに対するipilimumabの効果(無増悪生存期間:PFS)


出典:Lynch TJ et al.J Clin Oncol 2012 30:2046-54
図3 非小細胞肺がんに対するオプジーボの効果(生存期間:OS)

分子標的薬との併用で効果が高まる可能性

これまで発表されている臨床試験のデータを見ると、薬物治療が効かなくなった患者さんに対して、抗PD-1抗体薬や抗PD-L1抗体薬を単剤で使用した場合の奏効率(がんが半分以下に縮小する患者さんの割合)は、20%前後だという。

「従来単剤で薬剤を使用した場合の奏効率は10%未満が普通ですから、それに比べれば非常に高い奏効率になるのですが、それでも5人に1人という割合です。そこで、治療成績を向上させるため、様々な併用療法の臨床試験が進められています」

免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬を併用する臨床試験も、すでに始まっているという。例えば、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)のタルセバと、抗PD-L1抗体薬を併用する臨床試験が進行中である。また、まだ開発段階にある第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬と、抗PD-L1抗体薬との併用療法の臨床試験も始まっている。分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬を併用すると、どのような効果が期待できるのだろうか(図4)。

図4 免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬との併用ががんに作用する仕組み


EGFRの変異がある患者さんのがんには、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬が効く。ところがそういうがんにも、もともと薬剤に耐性を持った細胞が存在している。そのため、多くのがん細胞は死んでも、耐性を持った細胞だけが生き残り、増殖してくる。これが、それまで効いていた分子標的薬が効かなくなった状態である。

この耐性を持つがん細胞は、PD-L1を発現しているので、活性化したT細胞が近づいても、その活性が抑えられ攻撃することができない。ここで抗PD-1抗体薬や抗PD-L1抗体薬を使用すると、T細胞の活性が抑えられずに維持され、がん細胞を攻撃できるようになるのである。

「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬などの分子標的薬は、使っているうちに耐性ができてしまうという問題点があったわけですが、免疫チェックポイント阻害薬と組み合わせることで、延命効果、場合によっては治癒も目指せるのではないかと考えられています」

また、併用療法としては、従来から行われてきた免疫療法(免疫細胞療法やワクチン療法など)との併用も、大きな可能性を秘めているという。免疫のブレーキを取り除く治療と、免疫の働きを高める治療との併用は、免疫による治療効果をさらに高めることになると考えられるのである。

タルセバ=一般名エルロチニブ

現時点で重篤な副作用の報告は比較的少ない

免疫チェックポイント阻害薬による治療では、副作用として自己免疫疾患が心配されていたが、実際にはそうした重い副作用の報告は比較的少ないという。

「比較的よく起こる副作用は、皮疹や下痢などです。脳下垂体の分泌ホルモンの異常によって起こる下垂体炎など、普通の抗がん薬では起こらないような副作用の報告もあり注意が必要だが、全体としては、比較的副作用の軽い薬剤と考えていいようです。皮疹などの症状は、ステロイドを使用することで、コントロール可能と言われています」

今後大きな可能性を秘めている免疫チェックポイント阻害薬。臨床試験が進み、多くの患者さんに福音となるような結果が出ることを期待したい。

がんサポート(2015年2月号)より

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