現場医師の声

腹水を抜いて、治療に生かす

(このインタビューは2016年9月に行われました)

腹水中のがん細胞を治療に役立て、さらに元気に

多くのがん患者さんが苦しむがん性腹水。この腹水が、がん治療に役立てられようとしています。腹水を治療する独自の技術「KM-CART」を開発し、患者さんの症状の緩和に尽力してきた要町病院腹水治療センター(東京・豊島区)の松﨑圭祐センター長に、腹水を活かした最新のがん治療について伺いました。

大量の腹水を抜くだけではないKM-CARTのメリット

腹水に悩むがん患者さんはとても多いです。お腹の張りや息苦しさが出るだけではありません。痛みと違って薬剤で症状を和らげることが難しく、抗がん剤治療の中止につながることもあり、腹水が患者さんの生きる希望を奪ってしまうケースも少なくありません。

私はKM-CART(ケイエムカート)法を考案し、2009年から積極的に腹水治療に取り組んでいます。すでに4千名近い患者さんがこの治療を受けています(表)。がんの患者さんでは、膵臓がん、卵巣がん、胃がん、大腸がんなどの方がわりと多いですが、がんの種類にかかわらず、腹水が溜まっていればKM-CARTの対象となります。

表 KM-CARTを受けた患者さんの内訳(2009年2月~2016年6月)
病気の種類 治療を受けた患者数
膵臓がん 507名
卵巣がん 483名
胃がん 460名
大腸がん 356名
肝細胞がん 350名
乳がん 192名
子宮がん 136名
その他のがん 664名
がん以外の病気※ 718名
3,866名

※肝硬変、腎不全、心不全を含む

KM-CARTの特長は、従来よりも大量の腹水を抜けるところです。平均で6~7リットル程度、多い方ですと27リットル抜いた方もいらっしゃいました。それだけにとどまりません。KM-CARTのもう一つのメリットとして、回収した腹水をがん治療に再利用できる点が挙げられます。腹水の中に含まれるタンパク質や細胞を治療に使うのです。(図1)

図1 KM-CARTによる治療の実例

KM-CARTによる治療の実例

タンパク質の活用についてご説明しましょう。抜いた腹水は、ろ過してから、点滴パック1個程度にまで濃縮します。この濃縮液には、患者さんの体から腹水に漏れ出してしまった大事なタンパク質が含まれています。アルブミンやグロブリンといったタンパク質です。この濃縮液を点滴して、患者さんの体にタンパク質を戻してあげると、患者さんの栄養状態が良くなり免疫力も上がります。

腹水中のがん細胞を免疫療法「CART-DC」に活用

最新の治療法は、腹水の中にあるがん細胞を集めて治療に使う「CART-DC(カートディーシー)療法」です。DCというのは樹状細胞(じゅじょうさいぼう;Dendritic Cell)のことです。免疫細胞のひとつである樹状細胞を使った「樹状細胞ワクチン療法」とKM-CARTとを組み合わせたものが、CART-DC療法になります。

樹状細胞ワクチン療法は、体に備わっている免疫力を使ってがんをやっつける治療法です。がんを直接攻撃する兵隊は、リンパ球という免疫細胞です。このリンパ球に、攻撃相手のがん細胞がどのような目印を持っているかを教える司令官が樹状細胞です。樹状細胞ワクチン療法では、患者さん自身の血液から取り出した樹状細胞を体外で増やし、がんの目印を覚えさせてから、患者さんの体に注射で戻します。すると、樹状細胞は体内のリンパ球にがんの目印を教えて、リンパ球にがん細胞を攻撃させます。

樹状細胞がリンパ球に教えるがんの目印は「がん抗原」とよばれます。通常の樹状細胞ワクチン療法では、人工的に作られたがん抗原が使われます。ここで、患者さん自身のがん細胞を天然のがん抗原として利用すれば、個々の患者さんにより合った治療につながると期待できます。いわば、究極のオーダーメイド治療です。

腹水をろ過した膜を洗ったあとの液(洗浄液)の中には、数十万個のがん細胞が含まれています。洗浄液からがん細胞だけを選んで取り出し、そのがん細胞を溶かした液をがん抗原として樹状細胞ワクチンを作るのがCART-DC療法です。これまでは捨てられていたがん細胞が、がんの治療に有効活用される画期的な試みです。(図2)

図2 腹水中の成分のゆくえ

腹水中の成分のゆくえ

腹水を抜きながら、治療に再チャレンジ

これまで診てきた中でも印象的だった患者さんは、数年にわたって化学療法で頑張ったものの大量の腹水が溜まって化学療法ができなくなってしまった大腸がんの患者さんです。お腹の張りが強く、肝臓へのがん転移もあったので、余命2~3週間と言われていました。

しかし、2週間ごとにKM-CARTを行って10リットルの腹水を抜くとともに、洗浄液から取り出したがん細胞を使って樹状細胞ワクチンを作り、治療を行いました。その結果、肝臓の転移病変が破裂して急変するまでの5ヶ月間、在宅で苦痛なく過ごすことができました。

KM-CARTによって、腹水による苦痛を取り除くことが可能になりました。腹水を抜いた直後から、腹まわりが小さくなり、お腹の張りや呼吸の苦しさ、吐き気、食欲不振などが軽減します。また、脚のむくみも取れ、歩くのが楽になります。その結果、闘病する意欲を取り戻し、化学療法を再開した患者さんもいらっしゃいます。さらに、これまでは廃棄するだけであった腹水からがん細胞を取り出して、治療に生かす時代が到来しています。これは、腹水に苦しむ多くの患者さんにとって福音となると確信しています。

松﨑 圭祐 先生ご略歴

1981年 3月 広島大学医学部医学科卒業
1981年6月 広島大学第二外科、高知医科大学第一病理、第二外科を経て防府消化器病センター勤務
2011年 5月 要町病院 腹水治療センター長就任
2011年 8月 要第二クリニック院長就任

要町病院
〒171-0043
東京都豊島区要町1-11-13
TEL:03-3957-3181 FAX:03-3959-2432
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