現場医師の声

膵臓がん患者さんのQOLを維持しつつがん治療をしたい

消化器がんの中でも難治がんの代表といわれる膵臓がん。
超高齢社会を迎え、増え続けるがん罹患数に比例して、膵臓がんの患者数も増加の一途をたどっています。
膵臓がんの初期には特徴的な自覚症状がなく、検査でも見つけにくいため、発見された時にはすでに進行しており手術ができないことが多いとされています。膵臓がん全体でみると5年生存率は約10%程度と低く、その治療法の少なさ、予後の難しさがうかがい知れます。
今回は、そんな膵臓がんの新たな治療戦略に貢献すべく、日々臨床研究に尽力され、がん治療の最前線で活躍中の東京慈恵会医科大学附属柏病院 消化器・肝臓内科の小井戸薫雄先生にお話を伺いました。

膵臓がん患者さんのQOLを維持しつつがん治療をしたい

-小井戸先生は免疫療法の一つ樹状細胞ワクチン療法の臨床研究に携わっていらっしゃいますが、がん治療に免疫療法を採用しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

まずはがん患者さんの高齢化です。高齢で化学療法を思うようにできない方がこれから増えてくると思います。
私は消化器内科が専門で、膵臓がんを主に診ていますが、手術ができない方は完治が極めて困難なのです。治らないということは、延命しかできない。延命のための抗がん剤治療で、6ヶ月ほど余命が延びる、それは重要なことではあるのですが、患者さんの立場に立つと、「6ヶ月延びたところでいったいどうなるのだ」という声もあるわけです。抗がん剤治療で長くても6ヶ月しか延命できないのなら、治療の副作用に悩まされず、元気でがんと共存しながら生きていきたいとおっしゃる方も多い。

ですから、患者さんのQOL(生活の質)を維持できるくらいの用量で抗がん剤治療をしながら、プラスアルファで体に負担の少ない治療を併用できればという思いがありました。
免疫療法の一つ樹状細胞ワクチン療法は、まだ研究中で実際どれくらい効果があるかははっきりしていませんが、抗がん剤を併用すると相乗効果があるのではないかと期待しています。副作用の心配も少ないので、抗がん剤の量を調節しながら、患者さんに負担なく有効的に治療ができるようになれば理想的です。

進行膵臓がんの患者さんが初診から3年以上お元気でお過ごしです。

-実際に診療を担当されている中で、印象的な患者さんのエピソードはありますか?

現在も治療を担当させていただいている患者さんで、治療を開始してから3年6カ月(※1)くらい経過し、現在もお元気で過ごされている方がいます。進行膵臓がんで、抗がん剤治療と樹状細胞ワクチン療法を並行して受けておられる患者さんです。

実際は抗がん剤とワクチンのどちらが効いているのか、はっきりとはわかりません。ただ患者さん自身がワクチンに強い思い入れがありまして、あまり強い抗がん剤を希望されませんでしたので、普通より抗がん剤の量を少なく投与して治療を続けています。

治療の内容を押し付けず、患者さんに選択肢を与えて納得して治療を受けていただくことが、治療がうまくいくコツかなと思っております。それから診察中に必ず2,3回は笑ってもらってからお帰りいただくことを、心がけています。楽しい雰囲気を作って、外来に来るのが楽しいと思っていただけるように人間関係を構築出来るように努力しています。

この患者さんも、旅行に行かれたお話や趣味のことなど、いろいろお話してくれます。そういったことを含めて、患者さんが何を求めているのか、話をよく聞くようにしています。
このように免疫療法がよく効く患者さんの場合、体内にもともと抗体があるということもわかってきています。そういう患者さんに出会えたことは、医師として私も幸運ですし、少しでも長生きしてほしいと思っています。

広がる治療の選択肢、そのカギとなる免疫療法

-膵臓がんは難治性がんの代表と言われていますが、
医療技術の進歩により以前と比べて治療の選択肢が増えたと感じられることはありますか?

以前は、手術のできない場合は抗がん剤治療がメインでしたが、今は抗がん剤の種類も増えましたし、放射線療法や、樹状細胞ワクチン療法のような先進治療もあります。
私は樹状細胞ワクチン療法に出会う前にも別の免疫療法をやっておりまして、そこで治療が非常によく効いた進行膵臓がんの患者さんがいました。当初は余命3ヶ月と言われていたのですが、化学療法も併用して、半年くらいでがんが非常に小さくなって、手術ができるようになったのです。手術ができるかできないかのボーダーラインだった方が、免疫療法と化学療法の併用療法によって手術ができるようになった。手術ができると、その後の患者さんの生命も非常に延びます。そういった意味では治療の選択肢が増えてきていると思います。

一般的に、がんにはやはり標準治療がもっとも効きますし、中でも手術療法がいちばん効きます。ですから、いかに手術療法に持ち込むことができるかが治療のカギになるのですが、抗がん剤だけではそこまで持っていくことが難しい場合が多い。そこを放射線や免疫療法などを効果的に組み合わせて、がんを小さくして手術ができるようになれば理想的です。

一方、がんの転移などで手術ができない方の場合は、がんとうまく共存していくことが大切ですが、そこでも免疫療法などの新しい治療法を活用できるようになれば良いと思います。

樹状細胞ワクチン療法の効果の特徴と今後の治療戦略

-さまざまな医療機関と連携して臨床研究を進めながら、樹状細胞ワクチン療法のエビデンスを構築されているわけですが、現在までの研究結果についてお聞かせいただけますか?

私たちが行った臨床試験(※2)では、進行性膵臓がんの患者さん7名に、樹状細胞ワクチン療法と化学療法を受けていただきました。7名の中で、非常に効いた方は3名、ほどほどに効いた方は1名、あとの3名は効果がありませんでした。治療効果があった方は3例とも非常に良い治療成績で、一番長生きされている患者さんは治療を開始してから3年6ヶ月くらい経過していますが、現在もお元気に過ごされています。

なぜ効いたのか、またなぜ効かなかったのか、その原因を解明することが今後の治療戦略を考える上で非常に重要です。私たちが行った臨床試験では症例数が7例ですから、まだはっきりと言えることは少ないのですが、樹状細胞ワクチン療法が効くかどうかの選別に、患者さんの血漿中に含まれるIL-6(インターロイキン-6)やIL-8(インターロイキン-8)といったバイオマーカーが関係してくるのではないかと考えています。
現時点ではどのような方にワクチンが効く、ということがはっきりしていないので、まずは標準治療を受けていただいて、効果が得られなければ希望に応じてワクチンを、という選択になります。今後は、治療を開始する前から、どのような方が免疫療法の恩恵をうけることが可能かどうか、分かるようになれば良いと考えています。そのあたりも含めて、今後は大規模な臨床試験をしていく必要があると思います。

非常に面白いと思ったのは、7名の患者さんのうち、がんが小さくなった方は一人もいなかったのです。
当初は、がんが小さくならないなら効かないのではないかと思っていましたが、治療を続けていくと、がんはサイズを保ったままで、なおかつ患者さんはお元気なのです。もちろん、お亡くなりになる前はがんが大きくなります。しかし治療が効いた方は、長期にわたって、がんのサイズを維持していました。これは非常に驚きました。

-樹状細胞ワクチン療法に特徴的な効果の現れ方があるということでしょうか?

あると思います。治療が効いた方は、がん抗原に特異的な遅延型アレルギー反応というものが陽性でした。がんに対する免疫を誘導し、活性化できたという反応です。治療が効かなかった方はこの反応がずっと陰性で、陽性だった方もお亡くなりになる前は陰性になります。 ですからこの反応は治療効果と関係があると考えています。

また非常に経過の良かった患者さんでは、腫瘍マーカーで判断するとよくなったり悪くなったりを繰り返すということがありました。そういうことは抗がん剤治療ではありえないので、独特の効き方があると思います。

治療が効かない方にはどうしたら免疫を誘導できるのか、この点を追及することが今後の治療戦略になっていくと思います。また樹状細胞ワクチン療法だけでなく、たとえば最近話題になっている免疫チェックポイント阻害療法(※3)のような新しい治療法や放射線療法を併用したりして、さまざまな治療の形を考えることが重要です。

普段どおりの生活をして、長く生きる、
自分が受けたいと思う治療を患者さんに届けたい

-「がんとの共存」というお言葉が出てきましたが、
先生にとって、がんとともに生きるということはどのようなことでしょうか?

治療をしながら、患者さんの生活の質を維持するということが非常に重要です。単に長く生きるだけでは十分ではない。たとえば抗がん剤の副作用で生活の質を落としてしまっては、あまり意味がないというお話を患者さんから伺います。私は、普段どおりの生活をして、長く生きる事が、がんとの共存だと思っています。

またがんとうまく共存していくためには患者さんの精神面も非常に大事ですから、主治医や家族との人間関係も重視しています。患者さんにはなるべくご家族の方と一緒に診察に来ていただいて、みんなで患者さんをサポートするという雰囲気を作るよう心がけています。

-先生のお話を伺っていると、患者さんの視点に立つということを徹底されているなと感じます。

自分や自分の家族が、がんになったときにどのような治療を受けたいか、それを常に考えています。
たとえばもし私ががんになったら、抗がん剤AとBの2種類を受けるより、抗がん剤Aと樹状細胞ワクチン療法という治療を選びます。治療効果が同じだとしたら、副作用が少ないほうがいいですから。

膵臓がんは予後が厳しいがんですし、標準治療も効果が不十分です。だから患者さんは新しい治療法を求めていると思いますし、私もなんとか患者さんを助けたいという思いがあります。こういった標準治療の効果が少ないがんに、樹状細胞ワクチン療法や、免疫チェックポイント阻害療法のような新しい選択肢が増えると良いと思います。

あとは患者さんがどのように生きていきたいか、その点を重視して、一番良い治療法は何かを一緒になって考えていく。現在の治療法が不十分であれば、そこはまた研究によって開発していきたいと思っています。


※1 2016年2月現在
※2 (※進行膵癌及び胆道癌に対する塩酸ゲムシタビン併用WT1ペプチドパルス樹状細胞療法第I相臨床試験 (UMIN000004063)
※3 がんが免疫細胞に対してかけているブレーキを免疫チェックポイント阻害薬によって解除し、免疫細胞の働きを再び活性化する治療法


小井戸 薫雄(こいど しげお)先生ご略歴

1987年 3月 東京慈恵会医科大学 卒業
現在     東京慈恵会医科大学附属柏病院 消化器・肝臓内科 勤務

本サイトはがん免疫療法の開発企業テラ株式会社(JASDAQ上場)が提供しています。

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