現場医師の声

腹水を抜いて、元気になろう

(このインタビューは2012年7月に行われました)

多くのがん患者さんが苦しむがん性腹水。現在のがん医療では「腹水は、抜いたら弱る」が常識であり、患者さんは我慢を強いられています。ところが、この辛い“常識”を覆す「腹水ろ過濃縮再生静注法(CART)」という治療法がありました。
最新のKM-CARTの開発者である東京・豊島区の要町病院腹水治療センター長の松﨑圭祐先生にお話を伺いました。

腹水を抜いて、元気になろう

余命数週間からの復帰

まず、いくつかケースを紹介しましょう。私が前任地の一般財団法人 防府消化器病センター(山口県)にいた時の話です。ある日、岡山県に住む50代の女性から「腹水を抜いてほしい」と連絡がありました。聞けば、卵巣がんの末期(ステージIV)で抗がん剤治療も断念、多量の胸水と腹水で肺と心臓がつぶれかけて、呼吸ができず意識がもうろうとしている状態で、しかも、主治医からは余命1~2日の宣告を受けているというのです。正直、これはどうかなと思ったのですが入院を承知し、すぐにKM-CARTを施行しました。その結果は劇的でした。第1回目治療の翌日には食欲が戻り、同じ治療を繰り返すうちに腹水の量も減ってきました。何よりも楽に動いて好きな物が食べられるようになったことで、俄然、生きる希望が沸いてきたのです。この方はその後、抗がん剤治療の施行により胸水、腹水ともにたまらなくなり、元気に退院されました。

がん性腹水の新しい常識

また、ある60代のすい臓がんの方は、腹水が貯まって全く食べられなくなった時点で、主治医から緩和ケアを勧められました。「余命2~3週間」という状態ですよね。しかしそこで諦めず、四国から山口の病院まで数時間かけて来院、入院してKM-CARTを受けたのです。この方の腹水は20リットルもあったので、まず15リットルを抜き、9日後にもう一度試行してお家に帰っていただきました。それから3ヶ月後に本人から電話がかかってきたんですよ。驚いたことに、あれから腹水も貯まらず、抗がん剤治療を再開して仕事に復帰しているというのです。二例とも今までの「腹水を抜いたら弱る」という常識を根底から覆す典型的なケースです。古い常識を疑いもせず、研究を怠ってきた医師を叱咤する例であるかもしれません。がん性腹水の新しい常識はこうです。「腹水は、抜いたら元気になる」。

新しい技術「KM-CART」

がん性腹水を抜いたら死期が早まる、ウソとホント

がん性腹水はお腹の中に散らばったがん細胞が様々な炎症を起こし、その影響で血管から水分や血液成分がしみ出してしまう状態です。腹水が何リットルも貯まると、胃腸や腎臓が圧迫されて食欲不振や腎機能の低下を招きます。また、お腹に貯まった水が胸とお腹を隔てている横隔膜を押し上げ、肺や心臓を圧迫するため苦しくて横になれず、座ったまま眠るという患者さんも少なくありません。 ところがいくら「抜いてください」と訴えても、現代医療の常識では「がん性腹水は、抜くと弱って死期を早めるだけ」というのが定説です。ほとんどの主治医は腹水を抜くことをためらい、患者さんに我慢させるでしょう。確かに「ただ抜く」だけでは腹水内にある必要な成分も一緒に捨ててしまうので、ますます症状が悪化する可能性があります。

実は、30年前からある「難治性腹水」の治療法「CART]

それでは必要な成分だけを取り出し、再び身体に戻す方法があればどうでしょうか?身体への負担はかなり減るはずです。実はこれがあるのですね。最新の「腹水ろ過濃縮再静注法(CART)」は、取り出した腹水を特殊なフィルターでろ過し、必要な成分を濃縮して静脈内に戻すことで、「死期を早める」どころか、「再度、積極的な治療に向かう元気」を取り戻し、QOL(生活の質)の改善だけでなく延命効果が期待できる可能性を秘めた治療法です(図1)。最新の「CART」と言いましたが、「CART」はすでに1981年に保険適用されている治療法で、主に肝硬変などに伴う肝性腹水の治療にごく一部の施設で細々と施行されてきました。がん性腹水の治療でも試されたのですが、がん性腹水には肝性腹水より遥かに多くの血球成分やがん細胞が含まれているという特徴があり、2リットルも処理するとフィルターが目詰まりを起こしてしまいます。10リットル前後のがん性腹水の治療には、とても使えませんでした。

図1 腹水濾過濃縮最静注法(CART)システムの概要

腹水濾過器によって腹水中の細胞成分(赤血球、癌細胞、細菌等)などを除去し、更に腹水濃縮器によって除水を行い必要な蛋白濃度に濃縮
「KM-CART」の誕生と特徴

そこで、私とCARTを製造している企業が協力してがん性腹水に対応できる最新の「KM-CART(KMは私のイニシャル)」を開発、2008年からがん性腹水の治療を始めています。「KM-CART」の特徴は、ストロー状に丸めたフィルターの内側に腹水を通し外側へ押し出す旧来の「内圧式」を、フィルターの外側から内側へ通す「外圧式」に変更したこと。それから目詰まりしたフィルターを何度も使えるように、内から外へ簡単に洗い出すシステムを付け加えたことです。

もう苦痛を我慢する必要はないんです

旧来のCARTは2リットルが限界、最新式は15リットルに対応

内圧式、外圧式というと難しいかもしれませんね。ちょっとチクワを想像してみてください。内側の面積が狭いでしょう?外側の面積の方が広いですね。ろ過能力はフィルターの面積に比例するので、外圧式の方がろ過能力が高まります。実際、外圧式に変えただけで、ろ過能力が倍になりました。とはいえ、KM-CARTでも3リットル以上の腹水を処理すると、やはり途中で目詰まりが生じます。そこで、同時にフィルターを洗浄して繰り返し使う方法を考えました。この方法を確立することで、1回の施術で15リットル前後のがん性腹水に対応できる最新のKM-CARTが誕生したのです(図2)。また、ローラーポンプの代わりに医療機関ならどこにでもある吸引器による陰圧を利用できるために、多数のがん細胞や白血球などを含む腹水にポンプでしごくという機械的なストレスが加わらず、発熱もずっと少なくなりました。

図2 KM-CARTシステム

必要なタンパク質だけを取り出し、静脈から体内へ

KM-CART のもう一つの特徴は、腹水をろ過する過程で、要らない成分と必要な成分とを分けて、必要なタンパク質を濃縮して静脈から身体に戻すことができる点です。 がん性腹水の中には、がん細胞や炎症成分と同時に、血管内の水分バランスを保つアルブミンや免疫機能に関係するグロブリンという大切なタンパク質が含まれています。単純に腹水を抜いて捨てるだけでは、身体が弱ってしまう理由がここにあります。つまり、大切なタンパク質を捨てることで、さらに腹水が貯まり身体が弱るという悪循環を起こしてしまうのです。しかし、KM-CARTではこうした悪循環は生じません。実際、KM-CART施行後は、多くの患者さんで栄養状態や免疫機能の改善が見られます。

「KM-CART」の誕生と特徴

もう一つKM-CARTの素晴らしい可能性があります。それは従来であれば膜に詰まる“ジャマもの”であったがん細胞やリンパ球が洗浄液と一緒に回収でき、それらが免疫療法や抗がん剤の治療に利用できる点です(図3)。腹水はがん細胞と身体の免疫細胞とが戦う戦場です。その洗浄液には患者さんのがん細胞のほか、免疫療法に必要な「がん細胞を認識し、攻撃するリンパ球」が含まれている可能性が高い。これらを上手く利用すれば、従来の免疫療法の効率を上げることができるかもしれません(解説を参照)。このほか、腹水に含まれるがん細胞を使って抗がん剤の効き目を予測し、その患者さんに合った抗がん剤の組み合わせを考える際にも利用できるでしょう。

長い間、“がん性腹水は治療をあきらめる”というサインでした。しかし、これからは再治療のチャンスを告げる希望のサインであること、そしてもし有効な治療法が無いとしても苦痛を我慢する必要はなく、ご家族と穏やかに日々を過ごすことができるのだ、ということをぜひ、覚えておいて欲しいと思います。

図3 がん性腹膜炎患者に対する治療戦略

解説:がん性腹水をがん治療にリサイクル ― KM-CARTの膜洗浄液を用いたがん免疫療法

KM-CARTでフィルターを洗浄した際にでてくる液体(膜洗浄液)の中には、がん細胞や血液細胞(血球)が含まれています。こうした細胞はこれまで廃棄されていましたが、細胞を捨てずに「樹状細胞ワクチン療法」に有効活用しようという試みが行われています。

樹状細胞ワクチン療法は、がん免疫療法の一種です。樹状細胞ワクチン療法には「がん抗原」とよばれるがんの目印が必要で、通常は人工的に作られたがん抗原が使われます。ここで、患者さん本人から採取したがん細胞を目印として使えれば、個々の患者さんにより合った治療につながることが期待できます。KM-CARTの膜洗浄液から回収したがん細胞を、いわば天然のがん抗原として利用するための研究が進められています。

 

 

松﨑 圭祐 先生ご略歴

1981年 3月 広島大学医学部医学科卒業
1981年 6月 広島大学第二外科医局を経て財団法人防府消化器病センター勤務
2011年 5月 要町病院 腹水治療センター長就任
2011年 8月 要第二クリニック院長就任

要町病院
〒171-0043
東京都豊島区要町1-11-13
TEL:03-3957-3181 FAX:03-3959-2432
http://www.kanamecho-hp.jp/

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