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免疫力アップで照射部位から離れた病巣でもがんが縮小 アブスコパル効果が期待される免疫放射線療法

※本記事は、2016年11月号「がんサポート」に掲載されたものです。

放射線治療は局所の病巣に正確に照射することが常識だが、その効果は照射部位だけにとどまらない可能性が注目されている。離れた転移巣にも免疫の増強を介して効果があるケースを〝アブスコパル効果〟と呼び、免疫治療薬などとの組み合わせ(免疫放射線療法)でさらに効果が高まることが期待されている。その研究の最先端を専門家にうかがった。

「放射線治療と免疫療法を組み合わせた治療の研究が行われています」と語る鈴木義行さん

現場では知られていた〝アブスコパル効果〟

「放射線治療の歴史は約120年になりますが、がん治療に用いられた比較的早期の段階から、現場の医師たちの感覚では遠隔部位のがんも消えるという感覚があったと言われています。数十年前からこの〝アブスコパル効果〟は教科書にも載っていた様に記憶していますが、その証拠となるデータがなく、その後は分子標的薬などに押されて研究もしぼみがちでした。しかし、近年の腫瘍免疫学の進歩により、また重要なトピックとなっています」。

がん免疫放射線療法の第一人者である福島県立医科大学医学部放射線腫瘍学講座教授の鈴木義行さんは、免疫放射線療法の確立のために8年ほど前から研究を続けている。

〝アブスコパル効果〟のアブスコパル(abscopal)とは、ラテン語の「遠く」という意味の「アブ」と古代ギリシア語の「狙う」という意味の「スコパル」を組み合わせた言葉。ごく一部の患者だけで見られる珍しい現象だが、それを高率で発生させるメカニズムが次第に明らかになりつつある。

放射線照射を受けて死滅したり、脆弱化したがん細胞は、免疫刺激作用のあるタンパクやがん抗原などを放出するが、それをマクロファージや樹状細胞などの血液中の抗原提示細胞が処理することにより、腫瘍特異的細胞障害性Tリンパ球(腫瘍特異的CTL)が活性化される。それが体中をめぐって、放射線を照射した以外のがん細胞を見つけて攻撃していく(図1)。

図1 アブスコパル効果を示したMALTリンパ腫の1例

(写真左)多発病巣のうち左肺門病巣(写真上□で囲んだ部分)のみに照射
(写真右)照射後8カ月:左肺門部病巣は消失
※左耳下腺のFDG集積(写真右下の○で囲んだ部分)も消失

特定のがん抗原に反応する免疫システム

鈴木さんは2009年、放射線照射前後の腫瘍特異的CTLの数を観察し、「血液の中にがんのみを攻撃するリンパ球が増えたという間接的証明ができた」ことをデータとして発表した。食道がん患者16人に対して、放射線治療前後の血液中の腫瘍特異的CTLの数を調べたところ、6人(38%)で増加していた。方法は、治療前後に患者の血液から採取した腫瘍特異的CTLの数を観察するもので、2倍以上になった場合を増加とした。

研究では、対象となるがん抗原を6つ選び、これらのがん抗原の一部と結合するHLA(ヒト白血球抗原)-Class Iを持つ患者を抽出した。性別は男性15人、女性1人。ステージ別ではⅡ(II)4人、Ⅲ(III)6人、Ⅳ(IV)6人だった。化学放射線療法の開始前から治療終了30日後まで腫瘍特異的CTL数を計測した。

結果は、前述の通り6人で2倍以上に増えていたわけだが、中にはIMP3というがん抗原だけを攻撃する腫瘍特異的CTLが治療開始前の30個/wellから250個/wellまで増加していた人もいた(図2、3)。

図2 6つのがん抗原に反応して腫瘍特異的CTLが増え続けたが、
治療終了後に低下した例

Pre:治療前 During:治療中 Post-3:治療3日後 Post-30:治療30日後
図3 治療終了後も腫瘍特異的CTLが維持された例

Pre:治療前 During:治療中 Post-3:治療3日後 Post-30:治療30日後

鈴木さんは「Tリンパ球の総数が増えただけではがん免疫が賦活化したとは言えません。がん細胞を殺す腫瘍特異的CTLが増えないと証明したことにならないのですが、それができました。一方で、増えない人もいます。上がり方もそれぞれ異なっており、複数のがん抗原に対するCTLが上がる人もいれば、抗原によりバラバラな人もいました。しばらく腫瘍特異的CTLが残る人もいれば、すぐなくなる人もいます。同じ人でも体調などでも変わるのだろうと思われます」と述べる。

さらに、この研究の対象が化学放射線療法を受けた患者だったため、抗がん薬の影響もあるのではという観点から、抗がん薬、放射線それぞれ単独治療を比べたデータを採取した結果、「腫瘍特異的CTL数の増加は、放射線治療のほうがより影響をしている可能性が高い」ことが示されたという。

放射線照射の役割とは

放射線照射ががん免疫と関係している理由について、鈴木さんは「腫瘍特異的CTLががん細胞を認識するにはHLA分子の発現が必須です。がん細胞の多くでは、免疫から攻撃されないようにHLA-Class Iの発現が抑えられているのですが、放射線を照射すると隠れていたHLA-Class Iの発現が強くなるという報告もあります」と話す。

さらに、免疫活性に重要な物質であるストレスタンパク質HMGB1に関しても放射線治療が大きく関係している。鈴木さんは「HMGB1はがん細胞が死滅するなどした場合に出てくるタンパク質で、樹状細胞を活性化する働きがあります。その樹状細胞が腫瘍特異的CTLを活性化します。ここで放射線を照射するとHMGB1の放出が高まるのです」と解説する(図4)。

図4 放射線はストレスタンパク質HMGB1の活性化にも寄与する

免疫療法との併用の研究進む

鈴木さんは、近隣の病院で免疫療法と放射線療法の併用が効果を発揮した70代の女性腎がん患者の例を示した。患者は2008年に左腎摘出術を受けたが、翌年に再発した。その後は体調が悪く化学療法も不可能な状態になり、痛みとだるさから寝たきりの状態になってしまった。そこで、免疫療法を勧める娘さんに抱えられるように病院を訪れた。

まず、免疫療法(活性化リンパ球療法)が開始されたが、本人・娘さんの希望で10年11月から局所再発と皮下転移に対して、年齢や全身状態(PS)を考えて安全な1回照射量2Gy(グレイ)を25回照射する放射線治療を追加したところ、腫瘍が縮小(PR:部分奏効)、PET検査でもがんが小さくなった様子がわかり、PSも4から1に大きく改善した。

患者は2年数カ月後に亡くなったが、自宅で通常の日常生活が送れるほどに体調を取り戻して、多くの期間はQOL(生活の質)を維持した暮らしを続けられたという。鈴木さんは「CTL数の変化など腫瘍免疫学的な検討は行えなかったのですが、免疫療法と放射線療法の併用療法の効果を確信しました」と振り返える。

オプジーボの登場で加速

近年はがん免疫療法の薬剤も劇的に進歩しており、鈴木さんもその併用効果に注目している。「オプジーボなど免疫チェックポイント阻害薬の登場はとても大きなことでした。エビデンス(科学的根拠)のある免疫療法なので併用が期待できます。組み合わせやタイミング、投与量など証明すべきことがたくさんあるので、研究していきたい」としている。WT1を用いた樹状細胞ワクチン療法との併用なども候補だという。

米国では、オプジーボやヤーボイを使用した免疫放射線療法の臨床試験がすでに進んでおり、「放射線治療と同時、もしくは放射線治療直後に行うとアブスコパル効果がかなりの確率で生じたという報告がいくつか出ています。我々も併用療法の臨床試験への取り組みを計画中です。放射線は最後の一押し。免疫療法で底上げしておくとアブスコパル効果が出ると考えているので、放射線が当たった時に免疫が上がっている状態にするために、免疫療法を早めに始めるのがよいと思います」と話す。

また、大阪大学では今年(2016年)8月末から非小細胞肺がんにおけるオプジーボと放射線治療を併用する第Ⅱ(II)相臨床試験の募集を始めた。参加は20歳以上の男女17人が目標で、「根治放射線照射が不可能なⅣ(IV)期または再発症例」などという条件がある。方法は、オプジーボを2週間ごとに静脈内投与し、投与から7日以内に局所放射線治療を開始するというもの。こちらの取り組みも注目される。

オプジーボ=一般名ニボルマブ ヤーボイ=一般名イピリマブ

効く人と効かない人を選別する

免疫放射線療法の患者メリットを鈴木さんに聞いた。

「放射線治療は、治療後に再発した場合、周囲の正常組織への影響から2度同じ部位に照射するのは苦手ですが、アブスコパル効果がある場合は転移巣に放射線を照射しても原発巣にも効くことになるので、患者さんにとって放射線治療という選択肢が増えます。また、大きながんがある場合は、免疫力で目に見えないがんを叩いてもらい、放射線は小さい範囲の照射でよいということも考えられます」

今後はどのような展開が考えられるだろうか。

鈴木さんは「免疫療法では、オプジーボでもそうですが、効果のあるケースと効果のないケースがあります。遺伝子の傷がたくさんあるがんでは、変異が多いため〝異物〟と認識されやすく免疫治療が有効であり、そうではないと効果が少ないとも言われています。免疫放射線療法でも効く症例、効かない症例を選り分ける研究を進めていければと考えています。個人やがん種にもよりますし、ステージの進行による体力低下といったことも関係するのだと思います。そのためにはデータの集積が必要となります。採血や生検で、治療前に治療効果の有無を見極めることができればと考えています」と個別化治療への課題を挙げた。

監修●鈴木義行 福島県立医科大学医学部放射線腫瘍学講座教授
取材・文●「がんサポート」編集部
(2016年11月)

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